私が書き物をしている机の上に、いつの間にか窓から夕陽が差し込んでくる。昼食を摂った後すぐに羽根ペンを手にしたことを考えると、いつの間にかずいぶんと長い時間が過ぎ去ってしまっていたようだ。
「アルマ……アルマ?」
私はこの小さいが住みよく清潔に整えられた家で、寝食を共にする唯一にして愛する者の名を呼んだが、すぐに聞こえると信じて疑わなかった返事が耳に届くことはなかった。
かの者は私が机に向かっている時には邪魔をしないように気を遣い、時折茶を持ってきてくれる以外では家事や食事の支度をしてくれている。それでも私がこんな風に名を呼べばすぐに嬉しそうな顔を覗かせ、私の心を和ませる微笑みを見せてくれていたというのに、一体どうしたのだろうか。
まさか倒れていたりはしないかと慌てて隣の小部屋に駆け込んだが、そこにもその者の姿は見えない。ネレヴァリンであるアルマは病や老いでは死なないと言われているものの、何事にも万が一ということがある。もし近隣の町に出て用を済ませるような時は一言言い残していくその者のことだから、この近くを離れていないことは間違いないはずなのだ。
私は血相を変えて外に飛び出すと、哀れなほど取り乱して辺りを見渡す。
「……!」
この地に居を定め荒野の一部を切り拓き小屋を建てた後、私は自給自足のための小さな畑を家の裏にこしらえた。その庭と呼べるような場所の傍らにある二本の手頃な木の間に、その者はどうやら自分で作った吊り床をかけてみたらしい。微かに揺れるその吊り床の上でアルマはぐっすりと眠っていた。それに気づいた私の何と安心したことか。
「アルマ」
その側へ歩み寄り、囁くように名を呼びかけてはみるが、もちろん深い眠りに落ちている相手が反応するはずもない。私は震える手でアルマの頬に触れ、その温かさと柔らかさに安堵する。もう二度とこの者を失いたくない――私の命ある限り、どんなことがあっても。
「我が愛し子よ、こんなところで寝ていては風邪をひいてしまうぞ。この時期の夕暮れは冷えるものだ」
私はそう独りごちると眠るアルマにそっと唇を重ね、なめらかな髪を撫でた後、起こさないよう注意深く抱き上げる。こんなにもよく眠っているのなら、目覚めさせるのはどうにも忍びないのだ。このまま寝台まで運び、上掛けをかけて暖かくしてやりたい。こんな風に眠り込んでしまったのも、元はと言えば昨夜二人して夜更けまで語り合ってしまったからなのだろうから。
「……アルマ、愛している。そなたが何よりも愛しい……」
腕の中のブレトン娘に睦言を静かに語りかけながら、私は灰に霞む夕陽を背にしてアルマと二人暮らす家へと入る。全てが終わって手に入れた、私の終の住処、安住の地。そこで愛しき者と過ごせる時間の尊さなど言葉にはできない。
ヴィヴェクの聖堂の中でアルマと生活を共にしていた時は、大司教の立場がこの者に手を伸ばすことを決して許さなかった。恋慕の情を押し殺し、ただ見つめていることしかできなかった。アルマがネレヴァリンであると知れ、破門を言い渡さなくてはならなかった時、私はもう二度とこの者と穏やかに語り合える日など来ないのだと絶望した。私が最後に見たアルマは、全ての希望を失って傷つき涙すら枯れた顔をしていた。
しかし今私の腕に抱かれているその者は憂いのない安らかな寝顔で、心地よい眠りを楽しみながらひとときの夢にまどろんでいる。私がアルマに対して犯した罪を懺悔しながら生き永らえていたところに、この者は再びその姿を見せた。私に会いたかったと、昔も今もずっと私を愛していると、どんなことも厭わない、だから私の側にいさせてほしいとアルマが言った時、私は言葉を失い、ただ強くこの者を抱きしめることしかできなかった。
それからもう長い日々が過ぎたが、私がこの生活に飽くことなど未来永劫ないだろう。アルマが私に寄せてくれる想い以上に、私もまたこの者を心から愛しているのだから。
「我が愛し子よ、ネレヴァリンたるそなたにこんなものは不要かもしれないが……そなたのためにアズラへ祈らせてくれ。そなたがこれからもずっと幸福であるようにと」
寝台に横たえた愛する者の額に再び口づけを落とすと、私は一人静かに祈る。かのデイドラ公が選びしこの勇者に、更なる黄昏の加護が与えられるようにと。
