2 become 1

「あ、ハン・アンム!」

 いつもより少し遅くヤートから出てきた僕を、親友のヤントゥスがすぐに見つけて声をかける。毎日一緒にグアーの世話をしているんだから、それ自体は別に不思議なことじゃない。でも……。

「昨日ネレヴァリンがお前のところに泊まってったってホントか?」
「え!? な、何でもうそんな話に……」
「そりゃあのネレヴァリンと付き合ってる男がいるんだからみんな気になるんだろ。朝から集落はこの話で持ちきりだぞ」

 やっぱりさっきアルマさんを神秘魔術で家に帰しておいてよかった、僕はそう思いながらも迫りくる質問攻めのことを思いため息をこぼした。こんな小さな集落じゃ、何かを隠し通すなんてことはできそうもない。

「なあ、それでどうなんだよ? 泊まったってことは、お前もついにあのネレヴァリンと――」
「ヤントゥス、お前アルマさんが来てる時に彼女のことネレヴァリンネレヴァリンって言うなよ。アルマさんはそう呼ばれるのあまり好きじゃないんだ」
「え? そうなのか?」
「彼女は確かにネレヴァリンだけど……一人の女の子なんだ。もうネレヴァリンとしての使命は終わったんだし、普通にアルマさんって呼んであげてくれないか」

 無理矢理話題を変えながら、僕はグアーの餌をバケツに詰める。そしてヤントゥスにグアーを洗うブラシを手渡しながら、今日の放牧の予定を話し合おうとした……けれど。

「おう、わかったよ。で、その一人の女の子としての彼女とお前は結局やることはやったのか?」
「……ヤントゥス、お前なぁ……」

 餌をねだるクリフスキッパーのようにギャンギャンと尋ねてくる親友に、僕は目元を押さえて呆れながらもその質問の答えについて思いを巡らせていた。

 したかしてないかで言えば、した。僕は憧れのネレヴァリン、大切な恋人であるアルマさんと、昨夜僕のヤートで初めて一緒に夜を過ごした。それは死ぬほど緊張したけれど、言葉にできないくらい幸せな時間だった。

 もうかなり前から彼女と二人でいるとよからぬ想像ばかりが頭の中を埋め尽くしていたけれど、それを知られてしまうのが恐くて、僕はアルマさんとちゃんと向き合っていなかった。付き合っている恋人同士なのだから、その先に進むのはある意味で自然なことなのに、僕は彼女に触れたいと思いながらも、その気持ちをごまかして隠し続けていた。

 そんな僕に、アルマさんは泣きながらどうして触れてくれないのかと尋ね――僕が臆病でいたばっかりに、彼女を逆に傷つけてしまっていたことにやっと気づいたんだ。

「あ……っふ、ぁ」

 敷物の上に横たわったアルマさんと舌を絡めるキスを何度も交わす。そのたびに微かにこぼれる喘ぎ声は、僕が想像していたよりももっとずっと色っぽかった。綺麗で可愛い彼女が、紛れもない女の人なんだということを意識せずにはいられない囀り。それはこの世のどんなものにも増して、僕の心を甘く溶かしていく。

「ハン・アンムさ……ん、っ」

 僕を呼ぶ声を聞きたいのに、可愛すぎて口づけずにはいられない。必死にしがみついてくるアルマさんが愛しくて、僕はほとんど無意識のうちに片手を彼女の胸の上に重ねた。

「あ……!」

 びくんと細い身体が跳ねる。掌にとくとくと伝わるその鼓動は僕のそれと同じくらいに早くて、アルマさんも同じ気持ちでいてくれていることが嬉しい。

「あの……嫌……じゃない、ですか……?」

 そっと指先に力を入れながら囁くように彼女に尋ねると、アルマさんは困ったように眉を寄せながらも真っ赤な顔でこう呟いた。

「嫌じゃない、です」
「良かった。もし嫌だったら言ってくださいね」

 こくんと小さく頷いた彼女にまたキスをしながら、僕は信じられないほど柔らかいその胸を揉む。ふわふわで柔らかいのに、僕の指を押し返すほどの張りがあるアルマさんの胸。僕が手を動かすたびに、甘い声が耳をくすぐっていく。

「アルマさん、可愛い……!」

 額に、頬に、首筋に。愛しいあまりにキスの雨を降らせながら僕はアルマさんの胸を揉み続ける。

「ぁ……ハン・アンムさん、っ」
「直接触ってもいいですか?」

 自分で聞いておきながら、返事も待たずに彼女の服のボタンを外していく。初めて見るアルマさんの胸はミルクのように白く、淡い桃色の頂はもう固く尖っていた。

「あ、っあ、あ……!」

 たまらずにそこに唇を当てて吸い付く。アルマさんが身を捩って僕の頭を抱え込む。声にならない声を上げながら、その背中が何度もびくびくとしなる。

 女の人とこういうことをした経験が皆無というわけではないけれど、ウラス・パルたちに無理やり付き合わされたに等しいそれが楽しい思い出だったわけもない。自分が好きになった人とこんな風に結ばれるのは初めてだから、こうして彼女が感じてくれているのは本当に安心できる。

 大切で、傷つけたくない。嫌だと思われるようなことはしたくない。できれば気持ち良くなってほしい。僕はアルマさんのことが大好きだから。

「ア――アルマさん、っ!?」

 その時、僕の固く張り詰めたそこに突然アルマさんの手が重なる。驚きのあまり顔を上げれば、彼女は恥ずかしさのあまりか目を伏せながら、それでも小さな声でこう答えた。

「わ、私も……あなたに、したいです。私ばっかりしてもらうのは……その、申し訳ない、ので」
「そんなこと」

 でも、正直に言えば嬉しい。アルマさんも僕に触れたいと思ってくれていることが、こうしているのが嫌じゃないと思ってくれていることが、すごく。

「じゃあ……脱ぎましょうか、服」
「は、はい」

 直視できなくて視線を逸らしたまま、僕たちは半分身を起こしてそれぞれぎこちない動きで服を脱ぐ。床に落ちるほんの僅かな布の音でさえ、今の僕の冴えた耳には大きすぎるほどだ。ぱさ、とその音が聞こえるたび、すぐ側でアルマさんの身体が露わになっているんだと思うとどうしようもないほど興奮する。幸せすぎて、少し恐い。

「ア、アルマさん? どうかしましたか!?」

 でも、すっかり準備のできた僕が意を決して彼女の方を振り向くと、アルマさんは大きく目を見開くな否やぱっと顔を背けて目をつぶってしまった。やっぱりまだ早かったんだろうか。僕が急かしすぎた? こんな時どうすればいいのか、どうして誰も教えてくれないんだろう。

「す、すみません。もしあなたが嫌なら、今日はもう――」
「違います! あの……そうじゃなくて、その」

 はっと顔を上げた彼女はふるふると頭を横に振り、そしてまた俯き加減になりながらも、染まった頬を隠すように両手で顔を覆いながら小声で言った。

「その……あの、ハン・アンムさんの……が、その」
「僕の?」
「す、すごく……大きかった、ので……ちょっと、びっくりして」
「……!」

 危ない、理性が遠のくところだった。このままアルマさんを押し倒し、めちゃくちゃに蹂躙するイメージが頭をよぎったけれど、僕がしたいのはそういう行為じゃない。僕が見たいのは苦痛に耐えるアルマさんの涙じゃなく、快感にとろける彼女の潤んだ瞳だから。

「ええと……多分そんなことはない、と、思いますけど……でも、そう言ってもらえると……男としては、やっぱり嬉しい、です」

 自分の気持ちを落ち着かせるために何とか会話を続けながら、僕は伸ばした手でそっとアルマさんの火照った頬を撫でる。ぴくんと肩を震わせた彼女はしばらくそのままでいたけれど、ゆっくりと顔を上げて僕を見たアルマさんは、照れながらも優しく笑ってくれた。

「アルマさん、本当に嫌じゃないですか?」
「はい。あなたは?」
「……っ嫌なわけ、ない……」

 何も纏わずに抱き合うと、お互いの肌の温もりがよくわかる。アルマさんはとても温かくて、柔らかくて、何だか甘くていい匂いがする。ちゅ、と小さな音を立てて触れるだけのキスを繰り返した後、彼女はもう一度僕のそこに震える指先で触れながら真剣な顔で言った。

「あの……どうすればいいか、教えてください。私、気持ち良くなってもらえるようにがんばりますので」

 そう思ってくれる気持ちが嬉しくて、もうそれだけでどうにかなってしまいそうだ。いつかこんな関係になれる日が来たらしてもらいたいことなんてたくさんあったけれど、今は。今はただ少しでも長くこうしていたくて、僕は彼女の手の上に自分の掌を重ねる。

「じゃあ、こうして触ってくれればいいです。それだけでとても気持ちいいから」
「本当に?」
「はい」

 本当のことを言えば、これ以上のことをされると我慢できそうになかった。でもまだ中に挿れてもいないのに終わってしまうのはさすがに情けない。アルマさんが相手ならもちろんすぐまた勃つのは間違いないけれど、彼女より先に……というのは、できれば最初の一回以外でお願いしたい。

「すごく、熱い……」

 僕のものを恐る恐る握ったアルマさんが目を瞬かせながら呟く。細い指が巻きつく感触に、僕自身がどくんどくんと脈打っているのがわかる。住む世界が違うからと諦めていた憧れの人が、一糸纏わぬ姿で僕に触れてくれている。僕のことを想って、僕のために。

「それは……あなたが欲しいからです。あなたが好きだからですよ、アルマさん」

 触れているのがその人の手だと思うだけで、僕のそこはますます固くなる。苦しいあまりに雫を垂らして、一歩間違えばはち切れてしまいそうだ。

「嬉しいです……ハン・アンムさん、ありがとう」

 そっとさするように手を動かしながら、アルマさんがはにかんだように微笑む。こんな僕の下心を知っても、彼女は嫌だなんて言わなかった。むしろそんな僕だって受け止めたいと、その肌に触れることを許してくれた。

 ああ、もっともっと気持ち良くなってほしい。僕とこうしている時間を、アルマさんにも幸せだと思ってほしいから。

「アルマさん、好きです。愛してる……!」

 彼女の首筋に口づけながら、胸に触れていた手を徐々に下げていく。ほのかに汗ばんだ肌を撫で、なめらかなお腹を指先で辿りながら、僕が秘所に触れた瞬間、アルマさんははっと目を見開いて小さく跳ねた。

「あ……っ!?」

 くちゅ、と僕の指先が濡れる。ぬるぬるとあふれる蜜を絡めるようにゆっくりと指を動かすと、彼女は全身を緊張させたままただじっと僕のされるがままになっていた。

 はっきりと尋ねたことはないけれど、アルマさんはきっと経験がない。だからなおさら時間をかけて慣らしてあげなければ、彼女に嫌な思いをさせてしまうだろう。僕は、そんなことはしたくない。

「や……だめ、っだめ……ぇ……!」

 たっぷりと濡れた指で溝を往復しながら、そのすぐ上でぷくりと膨れた小さな蕾を撫でると、アルマさんは目に涙をためて僕の肩を震える腕で掴む。

「痛い?」

 優しく触れているだけのつもりだけれど、彼女にとっては違うかもしれない。不安に思った僕がそう尋ねると、呼吸を乱したアルマさんが潤んだ目で僕を見上げた。

「いた、くは……ない……です、けど……っでも、ぁ、あ」

 痛くはないと言われて僕がすぐに指の動きを再開させると、彼女はきゅっと目をつぶってびくびくと背を反らし反応する。

「そこ……だめ、です……変に……変になっちゃう、から……っ!」
「……っ!」

 思わずごくりと息を呑む。アルマさんのこんな表情を、これまで見たことがある人なんてこの世界のどこにもいないだろう。僕一人だけが知っている、彼女のこんな艶めいたまなざし。濡れた唇が熱に浮かされたように何度も呼ぶのは僕の名前だ。

 いつも太陽の下で見ている姿とはまた違った官能的な一面。そのどちらもが僕の愛する人で、僕を愛してくれている人だなんて。ああ、アルマさんはなんて――。

「可愛い……アルマさん、可愛いです、すごく……っ!」
「あぁ……っ!」

 大好きです、愛してます……言いたいことなんてたくさんあるのに、そのどれ一つたりとも言葉にならない。ただ夢中で唇を重ねて、少しでも僕の想いが届くように何度も何度もキスを繰り返す。彼女の中に指を沈めて、僕を受け入れてくれる場所を慣らしていく。逸る気持ちを抑えて、少しずつ。

「もう、挿れてもいいですか……?」

 しばらくそうしていた後で、僕はほんの少し身体を起こすとそう尋ねた。これ以上は僕も我慢できそうにない。早くアルマさんと一つになりたい。僕の大好きな、愛しい人と。

「……はい……」

 目元を赤く染めた彼女の言葉が、熱い吐息に乗って僕の耳に届く。僕は喜びのあまり飛びかかってしまいたい気持ちを何とか抑え込みながら、震える手で自分のものをアルマさんの濡れた秘所に充てがう。

「ん……っ!」

 滑るほどに濡れているのに、やっぱり彼女の中は狭い。ずきんずきんと痛むほどに脈打つ自分自身を感じながら、僕は何度も深呼吸を繰り返して少しずつ、少しずつ腰を前に進めていく。アルマさんは固く目をつぶり、形の良い唇を噛み締めて、僕を受け入れる痛みに耐えている。それがどうしようもなく申し訳ないと同時に、僕のためにこんなにも努力してくれていることが嬉しくて涙が出そうだった。

「アルマさん……」
「っあ……ハン・アンム、さ」
「アルマさん、あともう少しだから」

 抱きしめて、頭を撫でる。腕を僕の首に回してもらって、口づける。彼女の痛みが少しでも和らぐようにと願いながら。そして……。

「アルマさん……全部、入りました……よ」
「……!」

 先端がぐっと奥に当たる感覚と同時に、アルマさんと僕の下腹部がぴったりとくっつく。二人の身体が本当に一つになってしまったかのように、同じ速さで心臓が鼓動を刻んでいく。

「ハン・アンムさん……」

 囁くように僕の名前を呼んだ彼女が、背中に回した細い腕で僕を抱きしめる。立ち昇るアルマさんの香りに、僕は固く目を閉じて欲望を堪える。

「もう……大丈夫、です。だから……どうか、あなたの……好きなように」
「で、でも」
「心配、しなくても……私なら、大丈夫、ですから」

 ネレヴァリンとして数々の戦いに臨んだ彼女であれば、単純な痛みなんて恐らく何度も経験してはいるのだろう。でも、身体を内側から押し広げられるような痛みはさすがに経験なんてないはずだ。

 けれどアルマさんが欲しいという気持ちと恐がらせたくないという思いの間でまた動けなくなってしまった僕の背中を、彼女はもう一度優しい言葉で押してくれる。

「私……嬉しいんです。あなたと、大好きなハン・アンムさんと、やっとこうして一つになれたから。だから……」

 あなたも私を求めてくれるなら、この先を私に教えてください――そう告げた唇がそっと僕に重なって、心臓がまた一つどくんと大きな鼓動を刻む。アルマさんに触れているところ全てから、愛しさが流れ込んでくるみたいだ。

「痛かったら……言ってください。約束、ですよ」

 僕は最後の理性をかき集めてそう言うと、僅かに腰を引いて動き出した。

「……ぅ、ん……っ!」

 篝火の炎がぱちぱちと弾ける音の合間に、乱れた吐息と微かな水音が混じる。軽く押し、それを緩めるだけでも、痺れるような快感が腰からぞくぞくと駆け上ってくるのがわかる。じっとしているだけでも達してしまいそうだったのに、こんな刺激を加えていたら長くなんて保つわけがない。

「あ……アルマ、さん、すごい……!」

 アルマさんだって大丈夫と言ってくれてはいても苦しくないわけなんてないんだから、負担をかけないようにできるだけゆっくり動きたいと思っているのに、まるで自分の身体じゃないみたいに求めてしまうのを止められない。どれだけ息を吸ってもまともに呼吸ができている気がしない。彼女が僕に抱かれているのを見ているだけで意識が遠くなる。アルマさんが僕だけのものになってくれたということが嬉しすぎて。

「アルマさん……アルマさん、っ」

 指と指とを絡めて手を握る。貪るように深く口づける。彼女の抑えきれない声の中に確かに甘さがあることにほっとしながら、僕は何も考えられずにアルマさんとの行為に溺れていく。

「アルマ、さ……っごめんなさい、僕、もう……!」

 あまりの快楽に背筋が震える。まだ終わりたくなんてないのに、もうこれ以上はとても抑えきれない。そして彼女が返事をくれたかどうかもわからないうちに、僕の欲望がアルマさんの奥深くで弾けた。

「あ、ぁ……!」

 痛いくらいの快感。頭の中でバチバチと火花が散る。きゅっと締まるアルマさんの秘所を感じながら、その人の背中を両腕でかき抱く。好きだ。彼女を愛してる。ずっとこうしたかった。アルマさんと二人で、こうして。

「……う……」

 全身から力が抜けて、ただ鼓動の音だけが耳に響く。早鐘のようだったそれがだんだんと落ち着きを取り戻していく間も、彼女と僕の身体が本当に一つになってしまったかのように刻まれるリズムは同じだった。それが無性に嬉しくてアルマさんをぎゅっと抱きしめずにはいられなかったのだけれど、少し苦しそうな彼女の声に、僕は慌てて腕を離し飛び起きる。

「ご、ごめんなさい! アルマさん、大丈夫でしたか? 僕、途中から夢中になってしまって……あなたに無理をさせてしまったかも」

 敷物の上に横たわっているアルマさんの髪は少し乱れ、上気した頬のまま僕を見上げるまなざしには隠しきれない疲労の色が見える。けれど篝火の炎に照らし出された一糸纏わぬ姿の彼女は、ふっとその目元を緩めると僕に微笑みながら口を開いた。

「大丈夫ですよ。初めてだったので、少し……身体の奥が不思議な感じはしますが、その……な、慣れていけると思います。これから」
「!」

 つまり、それは。これからも、慣れていけるまで、僕とアルマさんは、何度も、こんな風に……。

「アルマさん……」
「はい……?」
「僕……幸せすぎて今なら死ねます」
「えっ!?」

 ぱたりと隣に倒れ伏した僕に、今度跳ね起きたのは彼女の方だった。

「い、嫌です。ハン・アンムさん、しっかりして――っ、え!? あ……っ!?」

 急に慌てた声を出したアルマさんに何かあったのかと驚いて身を起こすと、僕が彼女の中に出したものがとろりとあふれてその脚を伝いこぼれ落ちてくるところだった。恥ずかしさと混乱のあまりアルマさんはその顔を手で覆い、耳まで真っ赤にして座り込んでしまう。

 でも愛しい人が確かに自分の全てを受け入れてくれたという証をこの目にして、心踊らない男がこの世にいるだろうか? そのいやらしくも神聖な光景に、僕は胸の奥が締め付けられるほどの幸せを感じた……。

「――で、どうなんだよ?」
「え? あ、えっ!?」
「おい、お前ちゃんと人の話聞いてたのか? ハン・アンム」

 はっと気づけば怪訝そうな顔でヤントゥスが僕の前に立っていた。そうだ、僕は確かアルマさんを家に帰してグアーの放牧に出るところで――。

「ああ、餌はさっき準備したんだった。じゃあヤントゥス、そっちのグアーを洗っておいて」
「はぁ!? おい、だから昨夜――」
「僕はこっちの群れを放牧に出してくるから。じゃ!」
「な……おい、ハン・アンム、おま、ちょ」

 ヤントゥスに一方的にそう告げると、僕は餌を入れたバケツを持って駆け出した。

 エラベニムスンの誰もが彼女と僕のことを知りたがっているのはわかっているし、いつまでも隠し通せるなんて考えているわけではない。でも今はまだこの思い出の一夜のことを誰にも打ち明ける気はなかった。もうしばらくの間だけは、昨夜の出来事はアルマさんと僕だけの大切な秘密にしておきたいから。