JEALOUSY BURST !

 俺は今自分の置かれてる状況に全く頭がついていっていない。ここはテル・ウヴィリス、ミストレス・アルマのベッドの上。俺はその塔の持ち主に仰向けに押し倒されて、馬乗りになられている。ひどく切羽詰まった、何とも言えない顔をしてるミストレス・アルマに。

「お、おい師匠? どうしたんだよ、落ち着――」

 最後まで言い終わるより先に師匠が両手で俺の頬を掴み、そのまま唇を重ねてくる。とろけそうなほど甘い舌が俺の口の中を這い回り、とても抵抗なんてできない。いや、一応俺だってミストレス・アルマを押し返そうと試みてみた。だが師匠は俺に触れた時に一緒に麻痺の魔法をかけたらしく、俺は相手にされるがまま熱いキスを一方的に受け続ける。

 ミストレス・アルマと俺は周囲に隠れて密かにつき合っていて、キスをするのもこれが初めてなわけじゃない。だが師匠がこんな風に奇妙な行動に出たことなんて一度もないし、その理由に心当たりもないとなれば、俺が戸惑うのもおかしくはないはずだ。

「……っは、師匠……?」

 ようやく解放された唇で相手に向かって呼びかけてみれば、切なそうな目に涙をためた死ぬほど色っぽい師匠が俺を見つめる。上気した頬、濡れた唇。今すぐ飛びかかって逆に押し倒したい――が。

「……っ!?」

 身体が動かなくても固く張り詰めたそこに、師匠の華奢な手がそっと触れる。服の上から形を確かめるように、細い指先が俺のものをたどっていく。

「ミストレス・アルマ、あんた……何、を」

 抱いてほしいならいくらでも抱いてやるのに。むしろ抱かせてくれるなら大歓迎だ。ベッドを共にしたことももう一度や二度なんてもんじゃないのに、いつも受け身な師匠が何で今日に限ってはこんな行動に走るんだ?

「おい……おい待て、ちょ」

 だがミストレス・アルマは頑なに質問には答えず、無言のまま俺のベルトを外し、少しずつ服を脱がせていく。そして俺の敏感な部分を手に取ると、身を屈めてそこを丁寧に舐め出した。

「〜〜っミストレス・アルマ!」

 俺は何とか快感の波を堪えつつ必死になって恋人の名前を呼ぶ。それでも師匠が顔を上げる気配はない。

「やめ……てくれ、師匠……っ、あんたの、中でなきゃ……俺は」

 すさまじい快楽に耐えきれなくなる直前、絞り出すようにそう告げると、ミストレス・アルマの動きが止まる。そしてゆっくりと顔を上げた師匠は、涙を零しながら俺に言った。

「私と……したいと、思いますか?」
「は? あんた、何を言って……」
「エディ君は、まだ私のこと……欲しいと思ってくれるんですか……?」

 全く意味がわからない。そもそもミストレス・アルマに惚れ込んでしつこく口説き落としたのは俺の方だ。バルモラの酒場にカイウスのおっさんを探しに来た師匠を一目見た時から、いつかもう一度会えたら絶対に自分のものにすると心に決めてた。あの時は師匠もまだテルヴァンニの魔術師じゃなく、まさか再会が代理人のスカウトだとなんて夢にも思わなかったが、そんな運命のめぐり合わせを俺は本当に感謝したんだ。

「何言ってんだ……欲しいに決まってるだろ。知ってんだろ? 俺があんたにぞっこんだって」
「でも」
「でも?」

 ぐすぐすと泣き始めたミストレス・アルマは続きを言える状態じゃない。やっと麻痺が解けてきた俺は半身を起こすと師匠の背中に腕を回し、閉じ込めるようにして抱きしめる。

「なあ、本当にどうしたんだよ。積極的なのは嬉しいが、今日のあんたはそういうわけじゃないんだろ?」

 こめかみに、耳元に、いくつもキスを落としながら尋ねる。強大なウィザードで知られるミストレス・アルマが、俺の前でだけ見せるこんなか弱い姿。それを嬉しいと思わないわけがあるか?

「どんな理由だってあんたを愛してる。だから教えてくれよ、ミストレス・アルマ」

 抱きしめて髪を撫でる。俺の胸で泣いてる師匠が愛しくてたまらない。

「言ったらエディ君はきっと、もう……私のことなんて」
「今も言ったろ、どんな理由でもいいんだって。そんなことであんたを嫌いになるなら、最初から惚れたりなんかしてないぜ」
「……でも……」

 涙を拭ってやりながらそう告げても、頑固な師匠は泣いてばかりでなかなか口を割ろうとしない。だから俺は心にもない言葉だと承知で敢えてこう言ってみることにした。

「ならあんたが理由を言わないならこのまま嫌いになっちまうぞ。いいのか?」
「……っ嫌です!」

 拭ったばかりの目元からまた大粒の涙がいくつも零れ落ち、ミストレス・アルマの後釜やら何やらを狙っていそうな連中であることもあって、俺はテル・ウヴィリスに来るたびにこの女どもの動向に探りを入れてるんだが、それが師匠にとっては楽しいおしゃべりにでも見えてたんだろうか。

 ――答えは、ビンゴだ。

「……やっぱり同じダンマーの女の人の方が、私なんかより……」
「待て。待て待て待て。おい師匠、待て」

 そこからどうしてそんなに話が飛躍するのか理解できないが、とにかくミストレス・アルマは嫉妬したらしい。それもちょっとやそっとのヤキモチじゃなく、こんな暴走に駆り立てられるまでに深く。

「あのな、はっきり言っとくが俺はダンマー女は気が強すぎてそんなに好みじゃないんだ」
「えっ……そ、そうなんですか」
「だからって別に他種族趣味ってわけでもないけどな。どっちにしろ師匠が心配するようなことは何もない。俺はあんた一筋だ。トリビュナルにでも、九大神にでも誓えるぜ」

 そこまで言うとようやく強張っていた師匠の表情が少し緩み、いつもの優しい微笑みが戻ってくる。

「ごめんなさい、エディ君……私、てっきり」

 俺の首筋に顔を埋めながらミストレス・アルマが恥ずかしそうに言い、俺はこみ上げる喜びを隠しきれない。俺ばかりが一方的に好きだったところから、師匠も俺のことを見てくれるようになって、今じゃこうして妬いてくれるまでになったことが嬉しくてたまらないんだ。

「まあ、別にいいんだけどよ。でも疑われるのは困るんでね……あんたには忘れられないようにもっとはっきり教え込んでおかないとな」
「教え込む……?」
「ああ、そうだ」

 そこで俺はミストレス・アルマをベッドの上にぽんと転がすと、抗う隙も与えずに脱がせたそのローブを床の上に放る。準備万端のままお預けを食っていたものもやる気満々のままで、もう何が起ころうとも師匠と俺の時間の邪魔はさせない。

「俺がどれほどあんたを愛してるのか、今夜一晩かけてたっぷり教えてやる」

 時間をかけてミストレス・アルマの身体中にキスを落とした後、いよいよ繋がる寸前に俺が耳元で熱くそう囁くと、とろけたまなざしの師匠は両腕で俺を引き寄せながら唇を開く。

「ええ……ぜひ、お願いします」

 そう言ってくれた恋人の身体を、俺が堪能し尽くしたことは言うまでもない。