A Simple Question

「死ね! デムネヴァンニ!」

 耳障りな叫びと共に短剣を振りかぶった有象無象の暗殺者。そんな輩へ私がこの手で呪文を構えるよりも早く、隣に立っていた娘はその身を投げ出しつつ魔術の壁で相手を跳ね返した。続けて私が床にめり込まんばかりの重量を術で加えてやると、どこぞの組織のならず者は誰何されるよりも前に自ら命を絶つ。どうせ口など割らぬであろうという予測がついているとはいえ、昨今の暗殺者はずいぶんと諦めが早く潔すぎるものだ。

「バラダスさん、大丈夫ですか!?」

 慌てた様子のブレトン娘はそう言いながら青ざめた顔で私を振り向く。その白い頬に赤い血が一筋細く線を描いているのを見て、私は我知らず眉根を寄せた。

「私のことはよい。それよりも自分のことを気にかけろ、若い娘が顔に傷など作ってどうする」

 伸ばした手でそこを拭ってやれば痛みが走るのかアルマは僅かに顔をしかめ、そんな表情を目にしていると自分がますます苛立ってくるのがわかる。なぜそんな感情を抱くのか、思い当たる明確な理由など一つたりとて見つかりはしないが。

「……もしかして、こういうことはよくおありなんですか?」

 心なしか目線を落としたまま、娘は掠れた声で尋ねる。テルヴァンニ家で高位の者ともなれば、暗殺への対処など日常茶飯事だ。特に、私を目障りだと思っているであろう相手に目星もついているとあらば。

「お前がいる時に襲ってくるような抜けた輩は初めてだがな。何も驚くようなことではあるまい、我々テルヴァンニとはそういうものだ」
「でも……」
「お前が初めてここにやって来た時も、下準備の一環だったではないか」
「えっ!?」

 訝しげな顔で見上げてくる娘は私の言葉の意味を理解してはいないのだろう。そのような回転の鈍い頭では後々面倒事を招きもするだろうし、常日頃から私はそんな者たちを愚かしいと思い生きてきたものだが、ことこの娘の愚直なまでの純粋さというものに関しては、どういうわけかある種の好ましさのようなものさえ感じていた。

「グニシスの魔術師に質問をしろ、だが相手が拒めば答えはいらぬ――アークマジスターの代理人ともあろう者が、こんな依頼をしてくることを奇妙だとは思わなかったのか」
「…………」
「あの代理人は私が息災でいることを知ってゴスレンは喜ぶと言ったのだろう? あるいはもし私が死んでいたとしても、奴は同じかそれ以上に喜んだであろうが」

 私の居場所に間者を送り込み、その生死を確認させる。あの当時のこの娘に私の命を取ることなどできようはずもなかったが、そこから先はより手練れの者が引き受ければよいだけの話だ。実際それからしばらくの後に刺客がこの塔を訪れたものの、私とて伊達に高位の肩書きを保有しているわけではない。そう簡単に始末できるような者と侮られているのなら、甚だ心外だと言わざるを得ないだろう。

「じゃあ……じゃあ、私のせいで」
「何を言うか。お前に一体何の関係がある? もしお前がここへ来ておらねば、奴は別の者を送り込んでいただけだ。ゴスレンは蛇のように執念深く、狡猾で、己を脅かす者を許さん。例えこちらの側にその気などなくとも、奴にとっては目障りでしかないのだろう。私が西の端に隠遁しているだけではまだ飽き足らぬと見える」
「……そんな……」

 アルマは苦しげに顔を歪め、淡く色づいた唇を噛みしめる。なぜこの娘がこんな些末事にこうもこだわるのか、私には不思議で仕方がない。しかしアルマが私の身に降りかかる災難に対して憤っていると思えば思うほど、今まで感じたことのない奇妙な高鳴りを身の内に覚えるのだ。まるで己が身に起きた出来事のように、この娘が私に想いを馳せているという事実が。

「まあよい、もはや過ぎた話だ。だが――」
「バラダスさん? ……っ!」

 私は再び娘の顎にこの手をかけ、ついたばかりの傷跡をじっと見つめる。なぜ我が身が傷つくよりも、アルマの怪我の方が遥かに大きい憎しみをかき立てるのだろう。例えそれが私のためであっても、この娘に傷ついてほしくはない。私は確かにそう思っている――実に信じ難いことだが。

「あ、あの」
「……ああ、すまん」

 手を離せばアルマは一歩後ずさり、しかしその頬は薄っすらと赤みを帯びる。その様子にまた私の心臓は不可思議な鼓動を刻み、次から次へと生まれる謎の数々にはとても対処しきれない。なぜ私はアルマが側にいる時こんなにも、容易く心をかき乱されてしまうのか。

 その答えを導き出せる時までは、どんな刺客が来ようと元より屈するつもりもないのだが。