I want you

 バラダスさんに想いを打ち明け、またそれを受け入れてもらってから、もう数週間の時が経った。会いに行けばバラダスさんはいつでも私を歓待してくれるし、優しく頭を撫でて抱きしめてくれる。

 でも私が求めない限りバラダスさんから口づけてくれることはなく、また羽が触れるように軽いそれが徐々に深まっていくようなこともない。夜遅くまで話し込んでしまった時でさえそれとなく階下の客間へ連れて行かれてしまうから、すぐそこにある大きなベッドで同衾することすらまだ叶わないのだ。

 バラダスさんと肌を合わせる日なんてこのままずっと来ないのではないか、そんなことを考え始めれば自ずと疑念と向き合わざるを得ない――すなわち、本当はバラダスさんはそういう意味で私を愛してはいないのではないかと。

「……アルマ? しばし間が開いたな、今日はどうした」

 不安は日増しに大きくなっていくけれど、それでも会いに来ずにはいられないほどバラダスさんが恋しくてたまらない。現れた私を見て微かに目を細めながら研究の手を止めてくれるその人に、私は居ても立ってもいられず駆け寄るとその背に腕を回し抱きついた。バラダスさんの手が背中に添えられ、もう片方の手がそっと私の髪を梳く。それはとても幸せなことのはずなのに、今の私には悲しいほど物足りない。

 本当は、今すぐ熱いキスを交わしたい。お互いの身を包んでいるローブを脱いで、会えなかった間の寂しさなんて忘れてしまうほど夢中になって求めてほしい。

 でも、そう思っているのは私だけなのだろうか。そんなことを考えると無性に切なくて、知らずのうちに涙があふれてくる。私はこんなに好きなのに、恋しくて恋しくて息もできなくなってしまいそうなほど焦がれているのに、バラダスさんは違うのだろうか。

 種族の違い、年齢の違いと言ってしまえばきっとそれだけでしかないけれど、この人は思ってくれたことはあるのだろうか……私が欲しいと、溶け合って一つになりたいと、そんな想いがほんの少しでも頭をよぎったことは。

「アルマ、今日は本当にどうしたのだ。いつものお前らしくもない」

 突然涙ぐんだ私にどこか戸惑った様子でバラダスさんが尋ねる。けれどそう問われれば問われるほど、私が必死に押し殺してきた疑問は膨れ上がり、そして……。

「……ですか?」
「何?」
「私では……その気になれませんか?」

 堰を切ったようにそう問いかけてしまったけれど、相手の答えを聞くつもりはなかった。私はそれを口にするや否や目を閉じて、バラダスさんに深い口づけを贈る。舌を絡ませ、吐息の一つをも全て自分のものにしたいと言わんばかりに相手を求める。その首に腕を回し、身体を寄せて、何度も何度もキスをする。

 私はきっとわがまますぎるのだろう。長命なエルフの魔術師であるバラダスさんにとって、私はいつまでも生意気な小娘に過ぎないのだろうし、種族も違う私に性的な魅力を感じなくても仕方ないのかもしれない。受け入れてもらえるはずのなかった告白を拒まれなかったからと言って、こんな風に次々と要求ばかりを突きつけていいわけがないということもわかっている。

 それでも、私に触れてほしい。私を愛していると、私が欲しいと、言葉と態度で示してほしい。それがただ一度きりであったとしても、バラダスさんの愛よりも欲しいものなんて私には一つもないのだから。

「……全く困った娘だ。せっかく私が柄にもない努力とやらをしてみたというのに、お前は……」

 長い口づけの後でようやく私たちの唇が離れた時、バラダスさんは複雑そうな顔で私を見ながらため息混じりにそう言った。その言葉の意味がわからず、ただ見つめ返すことしかできない私を、その人は強く引き寄せて再び唇を重ね、そのまますぐ側にあるベッドの上へと押し倒した。

「一度でもこうしてお前に触れれば、もはや止めることなどできぬことはわかっていた。お前をより深く知りたいという欲がどれほど募ろうと、まかり間違えば私自身がお前に無理を強いて傷つけかねん。アルマ、お前を愛しておればこそ、私はこの先を急ぐつもりはなかったのだ。だが……」

 私の身体をまさぐりながら、バラダスさんが低い声で囁く。

「他ならぬお前自身がそれを望んでおるのなら、何を臆することもあるまい。私がその気になれんかどうか、己が身を以て確かめてみればよかろう」

 私が何か答えようとするより前に、バラダスさんは熱く甘い口づけでもう一度私の唇をふさいだ。

「アルマ……お前が欲しい。ずっとお前を抱きたかった……」

 耳元で告げられたその言葉に、私の頬を一筋の涙が伝う。けれどそれは決して悲しみからくるものではなく、尽きず湧き上がる喜び故のものだ。だから私は涙の跡を手で拭うと、精一杯の笑顔をただ一人想いを寄せた人へと向ける。あなたとこうしていられることが私には何よりの幸せなのだと、言葉にするより早く誰よりも愛しい人に伝わるように。