アルマを後見することにした時、私は少し期待できる手駒が増えた程度にしか思っていなかった。今となっては笑い話にしかならないが、彼女の素質自体は悪くないにせよ、その頃はまだ頼りないとしか言えないスキルしか身につけてはいなかったからだ。
それなりに手をかけてみて使えそうなレベルに成長したなら上出来で、もしそうでなかったとしても多少懐が痛む程度にしか過ぎない。いずれにせよ、その時の私にとって何よりも重要だと思えていたのは、評議会を牛耳る老害たちの息がかかっていない者を一人でも多く陣営に引き込むことだったのだから。
だがその魔術的才能が開花していくにつれ、私はこの弟子を良き同志と――あるいは心強い味方と見なすようになった。その華奢な身体の中に眠っていた底知れないマジカが目を覚ましていくたびに、彼女は比類なき早さで自身の階級を確実に上げていったのだ。
そしてそれと比例するように、いつしか私はアルマに一人の男として強く惹かれていた。いずれ私と同じ位置まで昇ってくるとはっきり予感させる、マグナスの加護を受けし者と言って差し支えないだろうこの若いブレトンの魔術師に。
正直に言えば、それは完全に不覚だった。私の大いなる野望の前に愛などもちろん必要ないし、むしろそれが私の弱みになるのであれば、全くもって敬遠して然るべきものと考えていたからだ。定期的に募る欲を満たすための手段ならいくらでもあるのは確かだが、私がアルマに感じているこの欲望は、例え彼女と身体を重ねたところで消えてしまうことなどないだろう。
私はアルマが欲しい。だがそれはただ関係を強いて満たされるものではない。より正確に言えば、私は彼女に私を求めてほしいのだ。私がアルマを想うように、彼女にも私を愛し焦がれてほしい。それこそ夜も眠れないほど、暇さえあればどこで何をしているのかに想いを馳せてしまうほどに。
そんな感情がこれ以上抑えきれなくなった時、私は塔を訪れた愛弟子を前にして想いを打ち明けた。テルヴァンニにはおよそ似つかわしくない柔和な物腰をしたアルマは、私が愛を告白した時も正面から拒絶はしなかった。ただ彼女はひどく困惑していて、それが予想外の出来事だったのは明らかだった。
「私はずいぶんと君にいろいろな贔屓をしてきたつもりだよ。それで気づいてくれればと期待もしていたんだが……少し見通しが甘かったかな」
私がそう畳み掛ければ、アルマはぱっとその頬を赤く染める。
「そ、それは……でも私はあなたの弟子ですし、アリョンさんはきっとお弟子さんにはいつもそういう風にしているものなんだと」
自分への態度が他人に対するそれとは違うことには気づいていたようだが、もし私がどんな弟子にも同じように手取り足取り面倒を見ていると思っていたのだとしたら、それは完全なる誤解だ。他のマスターたちと比べれば私は面倒見の悪い方ではないだろうが、逐一呼び出して手塩にかけた弟子は後にも先にもアルマ一人しかいない。
「ならそうじゃないとわかった今、君はどう感じているのか知りたいな。アルマ、君は私のことをどう思っている?」
好きか、そうでないのか、そのどちらか一つで答えてくれないか――畳みかけるように詰め寄る私を、彼女が途方に暮れた様子で見上げる。
「そんな……アリョンさん、どうして突然そんな意地悪なこと」
「意地悪? まあそうかもしれないね。私は好きな女性の困った顔を見るのが実は何よりも楽しみなんだ」
「!」
ぎょっとして目を丸くするアルマを見ていると、どうしようもなく口元が緩んでしまう。これまで誰に対しても感じたことのない、彼女の側にいたいという思いが止め処なくあふれてくるのがわかる。優秀な愛弟子にして誰よりも愛しい私の想い人、私の望む答えをその口から聞くまでは絶対に逃がさない。
「さあ、どっちなんだい?」
いつしか私は壁際にアルマを追い詰めて、その肩を挟むようにして軽く壁に手をついてそう尋ねていた。逃げ場がないと悟った彼女は涙の滲む目で私を見つめ、心底困った様子で一度唇を噛むと口を開く。
「好き……じゃない、というわけでは……ありま……せん、けど、でも」
「……でも?」
「や、やっぱり自分のマスターとそんな関係になるなんて良くないと思います! それでアリョンさんの評判に傷がついたりしたら――」
「そんなことは全く気にならないよ。君が私のものになってくれるのなら、誰に何を言われようと構わない」
「でも……でも、っ私」
「アルマ」
手の甲で頬を撫で上げ、そのまま耳に髪をかき上げてやれば、アルマはびくりと肩を震わせて潤んだ瞳を私に向ける。その様に思わずこくりと喉を鳴らしながら、私はその耳元でそっと囁いた。
「私はきちんと言ったはずだよ、好きかそうでないかで答えてくれと。君はとても賢い子だ、私が言ってほしい言葉はわかっているね?」
「ア……リョン、さ……でも、そんな」
「最後にもう一度だけ言う。私が好きか、嫌いかで答えてくれ。言い訳なんて聞きたくない。もしまだそんな可愛くないことを言うつもりなら――」
「……っ!?」
私は彼女の顎に片手を添えると、目を閉じて柔らかい唇を盗む。掠める程度に抑えたそれは私の自制心の賜物だが、アルマは言葉も出ないほど驚きただ私を見つめているばかりだった。
「もしまだ私を焦らすつもりなら、次はもっと深くキスするよ」
「!」
そう言ってにんまりと笑った私に、彼女が降参するまでそう時間はかからなかった。
