Pretty little jealousy

「こんにちは」
「アルマ! 久しぶりだね。君も元気そうで何よりだ」
「ええ……ところで、その」
「うん?」
「アリョンさんは、よくテル・モラにいらっしゃったりなさるんですか」

 ある日の昼下がり、テル・ヴォスに姿を見せたアルマは私を見るなりそう尋ねた。その顔は何とも複雑そうな、あらゆる感情が混ぜ合わされたような微妙な表情で、私は思わず目を瞬く。

「どうしたんだい? 急にそんなことを聞いてくるなんて」
「……いえ、別に。ただ何となく気になって」

 何もなければそんなことを聞くはずがない。私にもそのくらいのことはわかる。

「テル・モラは女の園だ。それにあそこを誰が治めているのか知っていれば、そうそう近づこうなんて命知らずな男はいないだろう?」
「でも」

 アルマはそこではっと顔を上げたが、目が合うなりまたすぐに俯いてしまった。

「本当にどうしたんだい? 君らしくないね、アルマ」
「…………」
「せっかく会いに来てくれたと思ったら、君はどうやらご機嫌斜めのようだし」

 アルマと私が恋人と呼べる関係になってからもうしばらく経つが、こんな彼女の様子は見たことがない。いつもは嬉しそうに私の名を呼んで、この腕の中に飛び込んできてくれるのに。

 思い当たることのない私はひとまずアルマを抱きしめようとしたが、どうにも彼女の身体は強張って唇さえ交わせそうにない。それでも逃げ出すわけではないから嫌われたということはないだろうが、かと言ってこんな状態のままその先を無理強いすれば、本当に縁を切られてしまうだろう。

 ぎこちなくその背を抱いたまま理由を探る私の視線に折れたのか、しばしの後にアルマはようやく重く閉ざされていた口を開いた。

「……この前、テル・モラの雑貨屋さんに寄ったんです」
「雑貨屋?」
「はい。でもちょうどタイミングが悪くて、コープラスモンスターを二階に閉じ込めていたところだったんです。こんな状態じゃ営業もできないということで居合わせた私が退治してきましたが、その時……お店の人が、いつもはマスター・アリョンに頼んでいたと言っていたので」
「!」

 それを聞いて私は納得した。つまりアルマは私がミストレス・ドラサの目と鼻の先で住民たちに手を出していたとでも早合点したのだろう。確かに私は依頼があれば手の空いている限り力を貸したことはあるし、彼女らのうちの何人かが私に対して感謝以上の想いを抱いていたことも知っている。

 だが私はその中の誰をも相手にはしなかった。テルヴァンニのアークマジスターに昇り詰めるという長年の野望の前に、色恋沙汰など意味はない。私にとってこの評議会で更なる権力を握るということ以上に、情熱をかき立ててくれるものなど何一つだってありはしなかった。

 ――そう、あの日アルマと出会うまでは。

「それで君は私がテル・モラにハーレムでも築いていると思ったのかい? ミストレス・ドラサが聞いたら卒倒するな」
「……っ」

 ふいと顔を背けるアルマだが、その耳はおかしなくらい真っ赤だ。我々ダンマーとは違う白い肌は彼女の内心を手に取るように教えてくれる。

「けれどね、私は嬉しいよ」
「え……?」
「つまり君は妬いてくれたということだろう?」

 不思議そうにこちらを見たアルマの顔が再び羞恥に染まる前に、私は今度こそ彼女の唇を奪った。離れている間もずっと会いたかったという想いを知らしめるように、深く、熱く、甘く長いキスを贈る。

 この可愛らしい恋人が嫉妬していたであろう相手の誰一人とて、こんな風に私と口づけたことはおろか抱きしめられたことさえない。もちろん、狂おしいほど欲しいと思わせたことも。

「君一人だよ、アルマ。私の心を掴んでしまったのは」
「アリョンさん……」
「だから機嫌を直してくれないか。君は笑っている方が素敵だからね」

 そういうことを言うから誤解されるんですよ、とアルマは苦笑しながら言うけれど。私が本心からこんな睦言を聞かせたいと思う相手は、世界広しとはいえ彼女一人以外にはありえない。それをもう一度知らしめるように、私は再びアルマを抱きしめてキスをした。