テルヴァンニの魔術師の常として、我らは求めるものに対して貪欲だ。それが私にとってはドゥーマーの知識であり、その研究に専念するためには評議員の地位すら欲しいとは思わなかった。権力に付随する有象無象の瑣末事に時間を取られるくらいなら、遥か西の端の塔の中で書物と共に過ごしている方が良かったのだ。
だがそこへ、あの娘が現れた。アリョンの若造からの使いとして、その面倒なマスター・ウィザードの責務を引き受けるよう、私を説得にやって来たのだ。礼儀を弁えた立ち居振る舞いは私の気分を害さなかった。それ故に多少の雑用を引き受けるのであれば、この娘の懇願を聞き入れてやってもいいだろうと思えた。ほんの一、二世紀の間であれば、大した手間にはならぬだろうと。
しかしあの娘はそれだけに飽き足らず、折々に私の元を訪れるようになった。そして全く予想外ではあったが、私はそれを煩わしいとは思わなかった。あの娘が語る外の世界の物語を、いつしか私は心待ちにしていた。言葉を交わし、共に過ごす時間のことを、気づけば楽しみにさえしていたのだ。
もしあの娘が刺客の一人だったならば、私はどこかで寝首をかかれていただろう。そうして気を許してしまう程度には、私はあの娘の存在を受け入れていた。だがそれが単なる親愛の類ではなく、より親密な――正確に言えば男女の情に根ざした感情に基づくものであると気づいた時、私は多かれ少なかれ衝撃を受け、そして我が身の愚かさを自嘲した。
あの娘が欲しい、その欲望を叶えようと思えば簡単だ。私はモロウィンドでも十指に入る強大な魔術師の一人であり、たかが小娘一人手篭めにすることなどさして難しくもない。それでもテルヴァンニにしては些か風変わりなほど純な考え方を持つあの娘を、力で強いて手に入れたならばそれはもう私の求める者ではなくなってしまうだろう。
老獪なウィザードたる私が、たかがブレトンの小娘一人さえ自由にできない。そうさせたのは他ならぬあの娘だ。あの娘に厭われたくはないと、できることならば好意を得たいと欲するのならば、私はただじっとあの娘を待ち、あり得ぬ未来が現実になることを願うしかなかった。つまりは、あの娘自らが私を望み選ぶ日がやって来ることを。
――然してその望みは現実のものとなった。だが私の心は未だ安寧を取り戻すことはなく、あの娘をいかなる時も求め続ける。これまで欲してきたものは、一度手に入ればそれで満足だった。しかしあの娘に関してだけは、手に入れる前よりも遥かに大きな喜びと不安がつきまとう。
あの娘と共に在る時、私は信じ難いほどの幸福と高揚感を覚える。あの娘に触れ、唇を交わし、衣服を脱ぎ捨てお互いの身を交える時、私は完全に満たされ、この世にかくも甘美な瞬間が存在することを思い知るのだ。
だがあの娘がこの胸から離れる時、私の心は悲痛に引き裂かれ、危うく腕を掴み、塔の中に引き留めてしまいそうになる。行くな、私の側にいてくれなどという世迷言を口走ってしまいそうにさえなるのだ。
何処か、私の知らぬところで、あの娘の身にもしものことがあったなら。ならず者や、蛮族どもが穢れた手であの娘に触れることがあったなら。狡猾で執念深い魔術師どもが、あの娘を奪い去ることがあったなら。
失うものさえなかった頃は、そんな心配など持たぬままでいられた。しかし何よりも強く望み求めたあの娘の心を手に入れた今は、一体いつそれを失うのかと怯えるばかりの日々を送っている。恐れずにはいられないのだ……今こうして私の腕の中に一糸纏わず収まっているこの娘と、もはや二度と会えなくなる時がやって来るのかもしれぬと思うと。
「アルマ、お前を愛している」
柔らかい髪を梳いてやりながら娘の耳元でそう囁けば、私に回された細い腕に込められる力が少し強くなる。そして娘は同じように囁き返すのだ――私も愛していますよ、と。その返事は蜜のように甘く、それでいて毒のように私を蝕んでいく。無論この娘にそんなつもりなどないのだろうが、私はもはやその言葉なしでは生きられない。
「愛しているのだ、アルマ……お前を誰にも渡さん」
続けた言葉に娘は照れたように頬を染め笑いながら、私の胸に顔を埋めて何度も頷きその返事に変える。その額にそっと唇を押し当ててやれば、娘は幸せそうな顔で私を見上げた。
「私はあなただけのものです。バラダスさん、あなたを心から愛していますから」
この世の何よりも愛しき、狂おしいほど胸を締めつける娘。この娘が私の愛に応えれば応えるほど、その歓喜は同じだけの苦悩を呼び覚ます。失えば生きてはいられないほどに、私はこの娘と溶け合ってしまった。願わくば、この娘も私と同じように感じておればよいのだが。
「愛しています、バラダスさん」
幸福が滲み出るような声で告げられたその言葉に、私は再び娘へ口づけを捧げる。この娘を私がどれほど想っているのか、それを知らしめるように慈しみを込めて。
