レイヴン・ロックの花嫁

 武勲を是とする家に生を受けながら、私はある優秀なブレトンの魔術師に命を救われた。それもまだうら若い、可憐な女性に。戦士としての教えを受けてきた身としてはいささか複雑な心境ではあったが、同時にそれが彼女だったことに喜びを感じていたのも事実だった。その類まれなる才能を持ったブレトンの魔術師たるアルマを、いつの頃からか私は密かに想い染めていたのだから。

 ひとかど以上の思いを込め、その華奢な手を握りながら感謝の言葉を告げた私に、彼女はさっと頬を染めると本当に良かったですと言った。自分の立場を理解していれば、この想いが実らないことはわかっていた。だからこそ私は恋慕の情を胸に秘め、口には出さないつもりでいたのだ。それでもこうしてアルマと見つめ合うようにして向き合っていると、抑えきれない想いが奔流のように止め処なくあふれてくるのがわかる。

 わざわざソルスセイムまで足を伸ばしてくるような変わり者の一人だった彼女は、その生来の優しさで徐々に町の住民たちの中に溶け込んでいった。枯れた鉱山の黒壇を蘇らせ、町に再び希望と活気を取り戻してくれたアルマに、私はどれほど感謝したとしても決して足りはしないだろう。尊敬と親愛のまなざしをいつも変わらず向けてくれる彼女に、それ以上を望むのはどう考えても過ぎた願いというものだ。

 しかし誰に対しても分け隔てなく優しく接してくれるアルマに、自分だけを特別に扱ってほしいという思いがかき消えることはなかった。一人の男として、また彼女が選び得る唯一の相手として、アルマとどちらかの命が尽きるその日まで手を携えられる相手でありたい。愛し、愛される男女として、何よりも強い絆でしっかりと結ばれたい。

 だが私がその想いを告白してしまう前に、彼女は意を決したような表情で私を見上げた。そして言った――あなたを失うことなんて考えられないんです、と。

「アルマ……?」
「……っごめんなさい、こんなこと本当は言うつもりはなかったんです。でも、でもあなたに……モーヴァインさんに、もしものことがあったら、私」

 私はそれ以上を言わせなかった。素早く腕を伸ばしアルマの背を抱くと、この胸の中に強く抱きしめる。

「モ、モーヴァイン、さん……!?」

 丸く見開かれた彼女の瞳が驚きに満ちて私を見つめる。愛しさが私を突き動かす。ずっと心の奥底で願い続けていた望みが叶う時を求めて。

「……っ!」

 私はほとんど無意識に目を閉じると、アルマの唇に自分のそれを重ねた。びくりと彼女の肩が跳ねたが、その手が私を押し返すことはない。夢に見るほど愛しい女性の唇は、想像よりもずっと柔らかく温かかった。触れ合わせるだけの口づけを解いた後で、私はもう一度アルマを見つめて告げる。

「ずっと君が好きだった。アルマ、君を愛している」
「モーヴァイン……さん……」
「どうか私の側にいてくれないか。辺境の地の領主でしかない私だが、必ず君を幸せにする」

 まだ赤みがかったままの彼女の頬に、涙が一筋零れ落ちる。だが相手の目元を濡らすそれは決して悲しみからのものではない。

「私で……いいんですか? だってあなたは」
「アルマ、君しか考えられない」

 モロウィンドを治める大家の筆頭格、そのレドランの評議員ともなれば、どんな出自の伴侶を選んでも構わないということはない。それでも私はいかなる障害にも膝を屈するつもりはなかった。第一、名家の令嬢ならばレイヴン・ロックの暮らしにはとても耐えられないだろう。私を、レリル・モーヴァインという男を愛し、共にあるためならば困難にも負けずに立ち向かっていける、そんな相手でなければこの地を共に治める重責は担えない。

 そして私はついにそういう女性とめぐり会った。この時を、私は長い間ずっと待ち続けていたのだ。

「私を望んでいただけるなら、この命ある限りずっと側にいます」

 そう答えた彼女の唇に、私は再び熱い口づけを贈った。