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ちょっと派手すぎないかな

2023-01-25 by 森野 クロエ

 種族も年齢も全く違う孤高の魔術師、学者と言った方が適切かもしれないような相手に私は恋をした。初めこそぶっきらぼうな物腰に苦手意識を持っていたはずなのに、何度も顔を合わせているうちにいつの間にか好きになっていて、それに気づいた時にはもう引き返すことなんてとてもできそうにはなかった。
 テルヴァンニ貴族のバラダスさんと、ろくな記憶も持たないアウトランダーの私。誰かに言われるまでもなく釣り合わないことなんて十分わかっていたし、そもそもバラダスさんが私なんかを相手にしてくれるわけもない。けれど自分からこの想いを断ち切ることはどうしてもできないのなら、きっぱり断られるまでは足掻いてみようと私は決意した。
 テルヴァンニの魔術師として求められる資質を必死に磨き、新たな呪文を習得しては昼夜を問わずその研鑽に励む。おかげで大家の中での位は順調に上がっていったけれど、そもそもの目的であるバラダスさんの心は残念ながら掴めているとは言い難かった。最初に比べればだいぶ打ち解けて話ができるようになったとは言え、私が求めているのは同じ組織に属する者としての絆ではなかったからだ。
 私は錬金術こそ下手だけれど、ブレトンの舌のおかげで料理ならかなり得意と言っていい。それでもとっておきの一皿を差し入れたところでバラダスさんは食に興味がなく、それがクワマの卵だろうとハイロック宮廷料理だろうと反応は変わらなかった。
 胃袋を掴むのが無理なら学術的な方面から攻めてみようと、ドワーフ遺跡を訪れる度に書籍や金属片を届けてみたこともあったけれど、生憎バラダスさんには不要なものばかり持って来てしまっていたのか、不用品を押し付けるなと怒られてしまったことさえある。

「アルマ、お前ももうテルヴァンニではそれなりの地位に就いただろう。ここへ来る用事でもなければ、そう頻繁に顔を見せずともよい」
「……すみません。ご迷惑でしたでしょうか?」
「そういうことではない。だが……ただでさえ人間マンの生きる時間は短い。私になど時間を割かず、もっと己に目を向けてみたらどうだ」

 いよいよ見込みのない恋に終止符を打つ時が来たのか、私自身も近頃は終わりの予感に気分が落ち込むばかりの日々だ。最近はバラダスさんを訪ねていってもどこかよそよそしく扱われるし、その態度も何だか落ち着かずソワソワしているように見える。次に会った時こそもうその顔を見せるなと追い出されてしまうかもしれない。
 追い詰められた私は藁にもすがる思いでありったけのお金を用意すると、バルモラのフラール地区に位置する高級服店の扉を開けた。

「いらっしゃいませ。どんなものをお探しでしょう?」

 ヴァーデンフェルの街々を一通り回った経験からすると、このミリーさんの店の品揃えが間違いなく一番ゴージャスだ。ちょうど他にはお客もいない時間帯だったにもかかわらず、私はカウンターに身を乗り出すと声を潜めて要望を告げた。

「あ、あの……女性らしいというか、これまでとは少し違った印象を持ってもらえるような服を探しているんですが」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

 ミリーさんは一度小さく頷くと柔らかい微笑みを浮かべ、カウンターの上に次々と流行りのローブやシャツを並べ始める。

「こちらの赤いものなどいかがでしょう?」
「色合いは素敵なんですが、ちょっと派手すぎるかもしれません」
「なるほど。ではもう少し落ち着いたデザインのこちらはいかがですか?」
「……そうですね、この系統なら気に入ってもらえるかも」
「差し支えなければお相手の種族を伺っても構いませんか?」

 さすがはプロと言うべきか、ミリーさんには私が服を買いに来た理由なんて最初からバレていたらしい。とは言え専門家に全てを委ねる以上にいい選択肢なんてあるわけもなく、私はバラダスさんに少しでも好感を持ってもらえるようなコーディネートをミリーさんのセンスに託した。

「承知いたしました。でしたら当店でお薦めできます一番用途に適ったものはこちらですね」
「!」

 切り札のようにミリーさんが箱から出してきたそのシャツとロングスカートに、私は目が釘付けになった。これなら間違いない。ひとたびこの服を身に纏えば、例えダゴス・ウルでも私を一人の淑女として扱わないわけにはいかないだろう。ただのよそ者や魔術師である前に私が女であると認識してもらいたいなら、このくらい気合いを入れないとバラダスさんの目にはきっと入らない。

「こちらに合わせた靴もご用意しますと、合計額はこのようになりますが……」
「結構です。全部包んでください!」

 金貨に羽が生えて次々に飛んでいく幻覚を見ながら、私はすっかり軽くなった財布と買ったばかりの品物を抱えて店を出た。懐は寂しくなっても、心は期待と希望でいっぱいだ。これを着てアルヴス・ドレレンに行ったら、バラダスさんはどんな顔をするだろうか? 少しは私のことを意識してくれるようになるだろうか?
 魔術師ギルドからアルドルーンへ飛び、そこからグニシスまでのシルトストライダーに揺られている間、私はあまりにも夢見心地だったから気づくことはなかった。クリフ・レーサーの群れを避けるために迂回していた道の途中で、私の服と靴の包みがアッシュランドのどこかに落ちてしまっていたことに。

「悪いが運送中の事故の保険じゃその額はカバーしきれないな。一応道沿いにそれらしき荷物があるかどうか注意して見てはみるが……」
「……わかりました。ありがとうございます……」

 乗った時とは正反対の気分でシルトストライダーから降りた私の心を反映したかのように、薄暗く曇った空からはぽつりぽつりと雨粒が落ち始める。せっかく素敵な服を買って、それをバラダスさんに見てもらおうと思ってグニシスまで来たのに、肝心の目的はもはや達成できなくなってしまった。とは言えここまで来たからには、そのまま踵を返してアルドルーンに引き返すという気にもなれない……。

「――アルマ? 何だその姿は、濡れ鼠でもあるまいに」

 未練がましく一目でもその人の顔を見たいと思ってしまった私は、結局こうしてアルヴス・ドレレンの上まで来てしまった。外でぐずぐずと悩んでいる間に強くなった雨に打たれたのか、少し驚いた様子のバラダスさんに指摘されたように、気づけば身に纏っているローブがじっとりと重たくなっている。

「あ……これは、その」
「風邪を引くぞとわざわざ言ってやらねばわからんほどお前は愚かなのか。そら、そんな濡れた服はさっさと脱いでこれでも被っておれ」
「!」

 そう言ったバラダスさんが奇妙なほど性急に私に押しつけてきたローブは、この塔の所蔵品としては似つかわしくない女物のそれだ。しかもつい最近手に入れたと思われるような、新品の。

「何を呆けている。早く下で着替えてこんか、馬鹿娘が」
「は、はい」

 足早に下の階に降り、渡されたローブを改めて眺めてみれば、優雅に広がったそれはミリーさんの店の品にも負けず劣らず美しく、触れただけで使われている素材も上等のものだとわかる。
 けれど、なぜこんなものがここに? 濡れた服を脱いで、渡されたものに袖を通しながら、私の頭はそんな疑問でたちまちいっぱいになる。もしかしてこんなローブを使うような人がここに来たりするのだろうか? それとも近々誰かに贈る予定でもあったのだろうか?
 そのどちらの考えも私の心をますます重くさせるばかりで、着替え終わった私はどんよりとした顔を見せないように気を張り詰めながら上の階へ戻った。

「バラダスさん、ありがとうございます。このローブは後日ちゃんと洗濯してお返し――」
「いらん。取っておけ」
「でも……」
「ローブの一着や二着ごとき小生意気な娘にくれてやる。それが気に入らんのならお前の好きに処分するがいい」
「……!」

 不自然なほどに目を合わせず、いつもよりも若干早口でその人から告げられた言葉に、私の心は頭が理解するよりも先に反応する。もしかして、このローブは。

「バラダスさん、もしかして……」
「何だ」
「……いえ。ありがとうございます、こんな素敵なローブをいただいてしまって。とても嬉しいです」
「そうか」

 そう言ったバラダスさんがやっと私の方を見て満足そうに微笑んでくれたから、図らずも私の願いは違った形で叶ったようだ。

カテゴリー: Novel, TES3 タグ: TES Short Stories

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