晴れて想いが通じ合ったその日、バラダスさんは自分と付き合っていることを他の誰にも言うなと私に言った。その人にとって歳の離れた異種族と恋仲であることはやはり恥なのかと思うと悲しくなったけれど、私の顔を見るなり何を考えているのかすぐに気づいたのだろうバラダスさんは、心なしか落ち着きのない様子で口早にこう告げた。
「勘違いするな。何もお前の存在を隠したいというわけではない」
「でも……」
「私は今やこの塔より外に出ることもほぼない身だ。誰が何を言おうと耳には入らん、勝手に言わせておけばよい。だがアルマ、お前は違う――身の丈以上に敵が多い」
ただでさえモロウィンドでの扱いがいいとは言えないアウトランダーで、マスター・アリョンの後見を得てテルヴァンニでの地位を固めているともなると、目障りだと思う人たちがいても何もおかしなことではない。以前から代理人やその上の位を狙っていた他の魔術師たちにとって、私はまさしく降って湧いた災難とでも言うべき邪魔者でしかなかっただろう。
もちろん私自身もその状況自体は理解していたけれど、何も持たない私はただ必死で前へ進んでいくしかなかった。降りかかる火の粉は払い、絡みつく蔓を打ち払って、生きていくために最善の選択をしていくより他に歩める道はなかったのだ。
例えそれが誰かを押し除け、その席を奪うことを意味していたとしても。
「アリョンの若造の息がかかっているというだけでお前は危険視されている。そこに更に私の名が加われば、少なくともテル・アルーンの領主は決してお前を見過ごすまい」
「……!」
既にアークマジスターから何度も刺客を送られている経験からか、バラダスさんは微かに眉を顰めて苦々しくそう告げる。私が三つの質問を携えて初めてここを訪れた数日後、早くもその命を狙う暗殺者を返り討ちにしたという話は噂で聞いたけれど、私もゴスレンさんの抹殺の対象になり得るかもしれないということは、こうして告げられるまでしっかりと考えたことはなかった。
けれどあの時からは確かにそれなりの時間が流れていて、私も今では自分の塔をモラグ・アムール地方に建てている最中だ。私が力をつければつけるほど、ただでさえよそ者嫌いのゴスレンさんにとっては腹立たしかったに違いない。取るに足らない下級魔術師のままだったなら目をつけられることもなかったかもしれないけれど、アリョンさんに加えてバラダスさんとも親しい交流を持っていることがわかれば、これ以上妙な動きをする前に消してしまおうと考えることだってあるだろう。
そして何百年もの間テルヴァンニ家のアークマジスターとして君臨し、あらゆる企てを退けてきたその老獪な大魔術師に、今の私ではまだ太刀打ちできないことは誰の目にも明らかだ。
「アルマ、お前は自らの力で位を上げるに値する魔術師だ。余計な色眼鏡で見られる必要もない。付け込まれる隙を自ら作るな」
「……はい……」
心を寄せる人と一緒にいられることが、弱みになってしまうことが悲しい。もし私に自分の身を自分で守り切れる能力があったなら、きっとバラダスさんはこんなことを言わなかったのではないだろうか。何百年も生きるようなウィザードたちと自分を比べるのは愚かだとわかっていても、相手に心配をかけてしまう自分の無力さに唇を噛む。
「アルマ、顔を上げろ」
静かに呼ばれた自分の名前にのろのろと顔を上げると、孤高のウィザードは優しさを宿した瞳で私を見つめている。
「そんな顔をせずとも、私とてお前を手放すつもりなどない」
「……っ!」
「そうでなければお前の形振り構わぬ攻勢に折れようとも思わんわ」
「形振り構わ……っ、そ、そんなつもりは……!」
初めて会った時には考えられもしなかったその人のそんな一言は、沈んでいた私の心をあっという間に喜びで満たしてしまう。バラダスさんのこんな表情を目にできるのは私一人だということが、誰にも言ってはいけないからこそ一層幸福をかき立てる。
「さりとてお前のような小娘ならば小綺麗な小間物の一つや二つ欲しかろう」
「!」
そう言ったバラダスさんが私に手渡したのは、見覚えのある緑の石のピアスだ。私はすぐにそれがその人の耳にあるものと同じピアスだと気づき、二人だけの秘密がまた一つ増えたことに喜びを隠せない。
「簡単なものだが付呪を施しておいた。この程度なら誰も気づくまい」
「……ありがとうございます!」
嬉しさのあまり飛びついた私を軽々と抱き留め、バラダスさんは私の背中を撫でながら額に一つ口づけを落とす。
「いずれ我が名がお前を守る時が来るまで、今はこれで我慢しておけ。そしてその来たるべき時が訪れたならば――」
「?」
〝お前が私のものだと全ての者が一目でわかるような、我が妻に相応しい指輪を改めて贈ってやる〟と、アルヴス・ドレレンの主はどこか満足そうな声でそう言った。
