仲間意識なんて元々希薄なテルヴァンニだけれど、同業者だからこその苦労を分かち合えることもある。各マスター・ウィザードの代理人はその最たるもので、議会の間は意見を曲げずに戦わなくてはならないものの、それ以外の時間は割とフランクな付き合いをすることだってあるのだ。
「アルマ? 何よその雑誌」
その日、いつものように長すぎる待機時間を潰すため、持ち込んだ雑誌を開いた私に声をかけてきたのは右隣の席のアララさんだ。
「おとといヴィヴェクに寄った時に買ってきたんです。シロディールの占星術師ギルドが発行している月刊誌なんですが、星座ごとの運勢が載っているので暇つぶしにいいかなと思いまして」
「へえ! じゃあ私のも見てくれる? 見習い座なんだけど」
「見習い座ですね。ええと……『前半は臨時収入のチャンス、後半は召喚されたアンデッドに注意。ラッキー魔法は神秘魔術、ボズマーの軽業師にツキあり』」
「神秘魔術か……あんまり好きじゃないのよね。とりあえずゲートウェイには近づかないようにしておくわ」
「何々? 楽しそうな話してるじゃない」
そこでレイヴェンさんが向かい側から飛翔魔法で一飛びしてくる。
「レイヴェンさんも見てみますか?」
「もちろん。あたしは戦士座」
「『南西への旅がお薦め、杖より短剣を装備して。ビターグリーンの錬金に注意、吸血鬼と関わると昇進の兆し』……だそうです」
「吸血鬼? うちのミストレスはそういうのに興味があるようなことを前に言ってたわね。ま、昇進してテル・モラに戻ったら男遊びもできないし、あたしは今のままでいいけど」
そこから私たちはお互いのマスターの星座について語り合ったり、星座同士の相性表を見ながらああでもないこうでもないと盛り上がったりした。
「ところでアルマ、あんたって何座?」
「私ですか? 魔術師座です」
「つまんなっ」
「そんな理不尽な!」
レイヴェンさんの率直な感想に上手い返事ができればよかったのだけれど、何の捻りもない私の答えにはアララさんも若干拍子抜けしている気配がする。
「で? どーなのよ、あんたの運勢は」
「これは……どうなんでしょう。『同僚とのコミュニケーションが幸運の鍵』というのはいいんですが……」
とは言え取り立てて悪いことが書いてあったわけではない。単に良いこともほとんど書かれてはいなかっただけだ。それでもどちらかと言えばマイナス寄りの評価にせざるを得ないのは、ある特定の項目が期待と真逆の記述だったからに他ならない。
「どれどれ? あー……正直、何か微妙ね。特にこの恋愛運、『今月は派手に動かない方が吉』」
「う」
「しかも何よ『ドワーフ関係には近寄るべからず』って」
「ぐっ」
アララさんとレイヴェンさんの二人に両側から雑誌を覗き込まれて、敢えて口に出さなかった部分を嫌でも再認識させられる。
「アルマ、さっきからどうしたの? 変な唸り声なんて出して」
「いえ……ちょっと私にピンポイントで効いたもので」
「?」
向かいから心配そうに声をかけてくれたフェリーサさんに返事をしながら、私は気持ちを落ち着けようと目を閉じて深呼吸をする。
そもそも私がこんな雑誌を買ったのは、ただ暇つぶしによさそうだったからという理由だけではない。最近気になる人がいて、アプローチの参考にならないかと手に取ってみたというのが真実だ。その相手が最高峰のドゥーマー研究者で、こちらから押していかなければ靡きもしないような人であればこそ、今月の運勢はやはり微妙どころではないのかもしれない。
「おいお前たち、いい加減にしろ。さっきから運勢だ相性だとバカバカしい。アークマジスターの代理人たる私のように、己の席に誇りを持って待機することはできないのか!」
そんな風に私が内心落ち込んでいると、ホールの奥のマラムさんがあからさまに馬鹿にした様子で声を上げた。代理人同士それなりの交流があるとは言ったけれど、唯一の例外がゴスレンさんの代理人であるこのマラムさんだ。もっとも彼の側は私たちを自分より下だと見做しているのを隠しもしないのだから、馴れ合うつもりなんて元々少しもありはしないのだろうけれど。
「……ったく、大した実力もないくせにうっさいわね」
「何ィ⁉︎」
「別に〜」
レイヴェンさんが渋々自分の席へと戻る道すがら、わざと聞こえるように口にした言葉にフェリーサさんが笑いを堪えている。席替えというものがない議事堂の慣習を考えれば、隣がマラムさんでなかったことは幸運だったのかもしれない。
そしてアークマジスター・ゴスレンとミストレス・ドラサの代理口論が繰り広げられている間、私はこの話題に一切加わらず静寂を保っている左隣の同僚に顔を向ける。
「あの、エナールさん」
「何だ」
私は興味を惹かれている人の代理人に声を潜めて呼びかけると、あくまでも世間話ですという風を装いながら思い切ってこう尋ねた。
「参考までにお聞きしたいんですが、エナールさんはマスター・バラダスの生まれ星座をご存知ですか?」
「我が師の? そんなことを知ってどうする」
「で、できればマスター・ウィザードたちの星座と能力の間に何か関係があるのか研究しようかと思っていまして」
「ずいぶんと変わった研究だな。まあ構わないだろう、我が師は儀式座の生まれだ」
「あ……ありがとうございます!」
私は妙に汗ばむ手でできるだけ自然に見えるように雑誌のページをめくり、密かに、けれど必死に、儀式座の運勢について書かれた箇所へと目を走らせる。そして──。
「……!」
雑誌を握りしめたまま微動だにしない私を奇妙に思ったのか、アララさんが右隣の口喧嘩から距離を取るようにこちらに身を寄せて尋ねる。
「今度はどうしたのよ、アルマ。急にニヤニヤしちゃって」
「いえ。でもやっぱり今月の運勢はそう悪くもないような気がしてきて」
「はあ?」
そう答える間にも、頭の中は今この目で見たばかりの文章でいっぱいだ──『儀式座のあなたは新たな恋の予感。ブレトンの魔術師が運命の人かも』。けれどその占いが本当に当たっているのかどうか確かめるのは、派手に動いても構わないだろう来月以降にしようか。
