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巻き込まないで下さい

2023-01-24 by 森野 クロエ

 ソルスセイムの南東の端、レッドマウンテンから飛来する灰や石の欠片が降り注ぐその土地に、奇妙としか形容しようのない魔術師の塔が聳え立つ。まるで生きているような脈動を時折刻む巨大なキノコの塔は、居住者がテルヴァンニ家の強大なウィザードであることを示すものだ。
 ……そして私は今、ここに立ち寄ってしまったことを強烈に後悔していた。

「マスター! 助けてください!」
「ええい、そのくらい自分で何とかせんか! これだからうだつの上がらない弟子は!」

 浮遊の魔法円を介して塔の上に降り立った私の目に映ったものは、何体ものスプリガンに囲まれて猛攻撃を受けているタルヴァス君と、こちらもまた襲い来るスプリガンを魔術で次々に蹴散らしているネロスさんの姿だった。
 一体何がどうしてこうなったのか、私には理解できないし知りたくもない。わかっているのはただ一つ、今すぐここを逃げ出した方がいいということだけだ。

「……ひっ!」

 けれど私が踵を返して何も見なかったことにしようとした瞬間、マスター・ネロスが始末したスプリガンの頭がこちらに真っ直ぐ飛んできた。反射的にそれを防護魔術で跳ね返してしまった闖入者へ、目敏いダンマーの魔術師の視線が向かないわけがない。

「おお、アルマか。いいところに来たな」

 私がここにいることなんてさも当然と言わんばかりに、片手で数体のスプリガンを焼き尽くしながらネロスさんは言った。その余裕ぶりには同じ魔術師としてある種の畏怖と感嘆を覚えてしまう――何とも不本意ではあるけれど。

「実験のためにスプリガンを培養してみたら数が増えすぎてしまってな。駆除を手伝わせてやってもいいぞ」
「はぁ⁉︎」

 前言撤回。こんな人を少しでもすごいと思ってしまった自分の情けなさに涙が出る。いくら凄腕の魔術師とは言っても、こういった人格破綻者にだけはなりたくないものだ。

「ぼさっと突っ立っている暇があるならキリキリ働け。その後は私に茶を淹れ――」
「お言葉ですが! あなたの突飛な研究に私を巻き込まないでください!」
「……巻き込むだと?」

 私は至極当然なことをネロスさんに告げたつもりだし、他にいかなる意味を込めたつもりもなかったのだけれど、相手はなぜか一瞬驚いたように赤い目を見開いた。その反応にむしろ私の方が面食らってしまうほどに。

「お前は何を言っているのだ。私の崇高な研究に、お前のような下等種族が関わる機会を与えてやっているのだぞ。平伏して感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いなどない」

 けれどネロスさんはすぐにその目をいつものように意地悪く細め、いかにも偉そうにふんぞり返って私を指差しつつそう言った。塔の反対側では不穏な音やら声やらが聞こえ続けているというのに、このダンマーの老魔術師はいついかなる時も平常運転らしい。
 きっとこの人の頭の中で私は喜んでマスター・ウィザードにお仕えしていることになっているのだろうし、その強固すぎる自尊心こそネロスさんを本人たらしめている気もするのは事実なのだけれど、私がどうして特に理由もなくこの塔を訪れることがあるのか、ほんの少しでも思いを巡らせてほしいと願うのはやはり過ぎた望みというものだろうか。
 こんな扱いをされるとわかっていても、それでも私はこの人の顔を見に来ずにはいられないということを。

「……今回だけですからね」

 馬鹿なことを言っているのは私自身が一番わかっている。このセリフだってもう何度言ったのか覚えていないくらいだ。それでもマスター・ネロスの頼みを私が引き受けなかったことは一度もないということを、いつかどこかで本人が気づいてくれる日が来ればいいのだけれど。

「最初から素直にそう返事をすればいいものを。全くお前はこの私に手間ばかりかけさせる……これが他の女ならとうの昔に塔から叩き出しているところだ」
「え」

 さっそく家具やスプリガンの残骸を片付けようと念動力を使おうとしていた私は、その時聞こえたネロスさんの言葉に思わず固まってしまった。
 今のはどういう意味だろうか。私は期待してもいいのだろうか? それともモロウィンドではもしかして全然違う意味があったりするのだろうか……?

「ネ、ネロスさん?」
「何だ」
「あの……今の言葉は、どういう」
「マスター! アルマさん!」

 けれど意を決して真意を問い質そうとした私の言葉はタルヴァス君の悲鳴にかき消される。

「何でもいいから早く助けてくださいよ! 僕はもう限界です!」

 半泣きで叫びながら助けを求めるマジカ切れのタルヴァス君を、ネロスさんがスプリガンと一緒に吹っ飛ばしたことは言うまでもない。

カテゴリー: Novel, TES5 タグ: TES Short Stories

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