今日も素敵ですね

 コロールは今日もいいお天気、こんな晴れた日にはきっと何かいいことが起こるかも? 例えば……。

「こんにちは、ダル・マさん」
「まあアルマ、私のヒーロー!」

 ほら、さっそくお願いが叶っちゃった。“大好きな人に会いたいな”って、たった今心の中で考えたばかりだったのに!

「会えてとっても嬉しいわ! 今日はまたお買い物?」
「はい。お母さんはお店に?」
「ええ!」

 アルマはブレトンの魔法使いで、デイドラに襲われたクヴァッチを解放した英雄なの。でも私にとってはもっと素敵な、ダル・マの物語の王子様。それまでだって優しい人だということは知っていたけれど、あのハックダートの恐怖の一夜から私を救い出してくれた時、この人がきっと運命の相手なんだってはっきりわかった……なんて言ったら大袈裟かしら? でも地下牢の中で泣いていた私を助けに来てくれた彼は、今まで読んだどんな物語の英雄よりずっとずっと素敵に見えたんだから。

「ではたくさん買わせていただきますね。それでは失礼します」
「ありがとう。またね!」

 本当はアルマと一緒に家まで戻りたいところだけど、〝買い物中のお客さまの後ろからジロジロ見ないの〟ってこの前お母さんに言われちゃったばかりなの。それでも彼について行って、もしお母さんがアルマの前で私のことを〝孵化したての赤ちゃん〟なんて呼んだら……ダメダメ、絶対ダメ! 恥ずかしすぎて死んじゃうわ。
 でも武器と防具以外は何でも扱ってくれるお母さんで本当によかった。だってそうじゃなかったらアルマと会う回数もきっともっと少なかったはずだもの。一度朝一番にお店に来た彼に寝起きの姿を見られちゃった時は、どうしてうちはお店なんてやってるの⁉︎ って、少し恨めしく思ったこともあったけど。

「お? ダル・マ、何だかご機嫌だな」
「ふふっ、わかる?」

 足取りも軽くお気に入りの大きな樫の木広場に向かえば、まるで風に吹かれて揺れる枝まで私に良かったね! って言ってくれてるみたい。きっとこの木の下で告白したら成功するなんて言い伝えがあるはずよ。今度ステンダールの聖堂の図書館にそういう本がないか探してみなくっちゃ。
 いつもよりもキラキラして見える木漏れ日の下で、私はうんと伸びをすると思わず小声で言っちゃったの。

「良かったわね、ダル! 今日は最高の一日だわ!」

 オブリビオンの扉があちこちで開いている時ではあるけれど、好きな人に会えただけで世界はこんなにも喜びでいっぱい。できればアルマも同じように考えてくれていたら……なんて、考えないわけじゃないのよ? でも彼が私をどう思っていても、私はアルマのことが大好き。彼がブレトンで私がアルゴニアンだなんて些細なことだわ。だって、大好きな人と一緒にいたいと思う気持ちが何よりも大事だって私にはわかってるもの。そうでしょう、マーラ様?
 今はまだこうしてコロールに来てくれるのを待つことしかできないけれど、ちょっぴり得意な弓の腕前がもう少し上達したら、もしかして少しくらいなら一緒に連れて行ってくれるかしら? ブロッサムには二人乗りもできるし、その時は私がアルマの後ろから腕を回して……。

「ダル・マ? 熱でもあるの? 何だか顔が赤い気がするけど」
「えっ⁉︎ ち、違うの! ちょっと……その、日差しが強くて!」
「そう? それならいいけど……」

 危ない危ない、びっくりしすぎて思わず尻尾がぴんと立っちゃった!
 どうやら楽しい空想の時間は飛ぶように過ぎ去っていたみたいで、残念だけど家に戻ったらもうアルマはいなくなってしまっていたの。それでもお母さんは彼との取り引きでだいぶ利益が出たみたいで、また来てくれないかしらなんて私のセリフを取っちゃうのよ。
 ……本当に、できるだけ早くもう一度ここに来てくれればいいのに。アルマがずっとコロールにいてくれたらいいのに。そうすれば、いつだって会いに行けるのに……。

「あら、私のハンサムさんじゃない!」

 そしてそれから何日かが過ぎて、コロールの門の向こうに私のヒーローの姿が見えた時。ハックダートから無事に戻って来られてから先、お母さんには門から外には出ちゃダメよってきつく言われているけれど、気持ちだけは衛兵さんの横を駆け抜けていってしまいそう。

「こんにちは、ダル・マさん。今日も素敵なお召し物ですね」

 治癒師聖オスラの像のところまで歩いてきてくれたアルマは、いつもと同じ柔らかい笑顔で優しい言葉をかけてくれたわ。
 今まではそう言ってくれるだけでとっても嬉しかったの。でも。だけど。それだけじゃ何だか物足りないなんて、いつから私はこんなにワガママになっちゃったのかしら? 彼はきっとそんな子なんて好きにならないって、ちゃんとわかってるはずだったのに。

「……素敵なのは、服だけ?」
「!」

 でもほんのちょっとだけ勇気を出して口にしてみたその言葉に、アルマは目を丸くして、そしてすぐにそれを細めて笑って。

「失礼しました。確かにあなたの服も素敵ですが──」

 そう言いながらアルマが一歩私に近づいて、胸のドキドキが止まらない。ああ神様、どうかこの心臓の音が彼に聞こえていませんように!

「それを着るダル・マさん自身がこんなにも素敵でなければ、きっと僕も服のことまで気がつかなかったでしょうね」
「……っ!」

 好きな人からにっこり笑ってそんなことを言われたら、お世辞だってわかっていても喜ばずにはいられないわ!

「も、もう! アルマったら……!」

 どうしよう、彼のたった一言でこんなにも嬉しくなっちゃうだなんて。これが恋の魔法なら、アルマはきっとオカート議長みたいな大魔術師様ね。でも……。

「ところでダル・マさん、コロールを訪れる旅人たちにいつも明るく挨拶してくださるのはいいんですが……」
「?」
「あまりそんな笑顔を向けていると、勘違いする人が現れるかもしれませんよ」

 突然真面目な顔でそんなことを言い出したアルマに、やっぱり迷惑だったのかと急速に落ち込んじゃう。

「わ、私……ごめんなさい、馴れ馴れしくし過ぎてしまって」
「えっ⁉︎ いえ、違うんです! ええと、僕が言いたいのは……その……」

 〝あなたがこちらに気があるのでは、なんて勘違いされたら困るでしょう〟って、どことなく視線を外してアルマがそんなことを呟いたものだから。ぱちぱちと瞬きを繰り返してみれば、何だか彼の顔もいつもより血色が良く見えるような……?
 じゃあ、まさか。もしかして。

「もう、アルマってば心配性さんね!」
「それは……心配もしますよ、だってあなたはこんなに」
「私がそんな笑顔を向けているとしたら、それはあなたにだけなのよ。知ってる? アルマ」
「っ⁉︎」

 驚いた顔をした彼の頬は、シェイディンハルのイチゴみたいに真っ赤だわ! なんだ。なあんだ。それなら私の気持ちは一方通行じゃなかったのかしら?

「〜〜っですから、そういう言い方をすると誤解が……」
「それならどうぞ誤解してちょうだい?」
「ダ、ダル・マさん!」

 ねえ、我が愛しの日記帳さん? このロマンチックな話を余さず書き残しておくためには、今日の分のページだけじゃ全然足りないと思わない?