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ハハハ面白いですね(真顔)

2025-05-13 by 森野 クロエ

 タルヴァス君が実家に帰った。とは言ってもついにこの劣悪な環境に嫌気が差して逃げ出したというわけではなく、いわゆる帰省、里帰りという意味で。そして他の住民、ドロヴァスさんやエリネアさんやウルヴスさんは、例の如く必要不可欠である場合を除いてここには近づこうとしない。
 つまりメインの塔の中には今、このキノコの集落の元締めと私の二人だけが残っている。

「アルマ! おい、アルマ!」
「はい、今度は何ですか?」

 塔の中に響き渡るは短気で傲慢な魔術師の声。ついさっきは極大から極小までサイズの混ざった魂石の選定、その前は散らかった付呪台の片付け、さらにその前は実験用のスプリガンの世話。ひと段落ついたかと思えば休む間もなく次のお声がかかり、しかも片付けたばかりの付呪台がまた散らかっていることに気づいて思わず二度見する。
 タルヴァス君は今朝ここを出発したばかりだと言うのに、一刻も早く帰ってきてくれないかと既に思わずにはいられない。

「茶がぬるい、淹れ直せ。それとハートストーンの手持ちも足りない。また次の実験には特殊な杖が要る」
「そんなにいろいろ言われましても、私の身体は一つしかないんですが」
「何だと⁉︎ それは不便だな……お前を三つほどに割いて増やせれば便利なのだが」
「ハハハ、ネロスさんもおもしろいことをおっしゃるんですね。それはダンマー流のジョークですか?」
「アルマ、お前は何を言っている? 私が冗談など口にするはずがないだろう」
「…………」

 真顔で抗議したつもりなのに、相手も輪をかけて真顔だった。この話はこれ以上追求しない方がよさそうだ。
 望む望まざるにかかわらずテル・ミスリンの一員になってから、テルヴァンニという大家に属する人たちは総じて変人ばかりであり、しかも頭がおかしければおかしいほど強大なウィザードらしいということは学んだ。だから出来の悪いジョークのようにしか聞こえないマスター・ネロスの妄言も、もしかしたら本当にやりかねないという不安が常につきまとう。
 心臓を怪しげな石と入れ替えるとまではいかなくても、私も危うく牛やら馬やら犬やらになったまま元に戻れなくなるところだったのだから、彼らの術が“普通”の枠に収まらないことは身を以て実証済みだ──こんなことを言うと、ブレリナさんには怒られてしまうかもしれないけれど。

「とにかく、まずはお茶を淹れます。他のことはそれから──」
「いや、待て」
「はい? ……っ⁉︎」

 思いがけず呼び止められて後ろを振り向くと、ネロスさんとの距離が妙に近い。そしてそれに驚く間もなく伸びてきた手がすっと私の顎にかかり、瞳を覗き込まれるかのようにじっと見つめられる。

「ネ……ネロスさん?」
「黙っていろ」

 こんなことをされれば相手が誰であれ顔が赤くなることもあるだろう。けれど私の頬がみるみるうちに真っ赤になっているであろうことは、実際のところ相手がこのイカれた魔術師であるということが大きい。
 レイヴン・ロックでも言われていたように、どんな高給でもテルヴァンニの魔術師と働きたい人なんてほとんどいない。潤沢な資金に恵まれているわけではない人だってそう言うのだから、お金に困っているというわけでも人生に絶望しきっているわけでもない私が、どうしてテル・ミスリンにいるのか不思議がられることも日常茶飯事だ。
 表向きは魔術の研究のためと答えるようにはしているし、実際にネロスさんのふとした実験から得られる知識も多いのだけれど、弟子かつ助手としての役割はほぼタルヴァス君に一任されている。私もそれなりに必要とされていると言えば聞こえはいいものの、その実態はどちらかと言わなくても単なる下働きだ。私がいてもいなくてもこの塔の営みに変化はなく、何なら新たな人員が雇われて私の仕事を引き継ぐかもしれない。おまけにここにいる限りネロスさんからの無理難題も尽きないし、モーヴァインさんには会う度に哀れまれて他の仕事を斡旋される始末だ。
 それでもここを離れようとまでは思わない本当の理由を、もしも誰かに打ち明けたら私こそ頭がおかしいと思われるだろう。テルヴァンニのマスター・ウィザード、大魔術師ネロスという人に、こんな風に振り回されるのも実のところ嫌なわけではないだなんて。
 この人は次に一体どんな突飛なことを言い出すのだろうと、心のどこかで楽しみにしている自分がいないわけではない。〝お前なら当然このくらいのことはできると私にはわかっていた〟と、なぜか向こうが鼻高々に私に告げてきた時から、私の中でこの錯乱したウィザードへの認識は変化したのだろう。
 そんなことは誰にも言えない。絶対に言えるわけがない──けれど、それでも。

「……最低でもお前が二人いれば、杖を取りに行っている間も私に茶を淹れられるのではないか?」
「私はスプリガンではないのでそんなにホイホイ培養できません!」

 さも名案を思いついたと言わんばかりにポンと手を叩いたその人に、こんな軽口を返せるのも私だけであってほしいと願ってしまうのだ。

カテゴリー: Novel, TES5 タグ: TES Short Stories 3

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