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よく頑張ったね

2025-05-13 by 森野 クロエ

「ちくしょう、ここもハズレかよ……!」

 広げた地図にバツを書き込み、俺は苛立って頭をかきむしる。これでもういくつのデイドラ遺跡を成果なしで巡ったのか考えてるような暇があったら、残りに期待をかけた方がいいってのはその通りだ。それでもまた一段と少なくなった回復薬の残りを目にすれば、肩を落としてため息の一つや二つつきたくなるってもんだろう。
 俺は師匠のアークマジスター、ミストレス・アルマから直々に頼まれて、しばらく前からとある術の書を売っている魔術師を探していた。何でも自在に動く召喚武器や防具の術を扱っているとかで、普通の術のように呼び出した得物を自分で振り回す必要がないらしい。売人は前にたまたま師匠が立ち寄ったデイドラ遺跡に腰を据えていたらしいが、どこだったかを忘れちまったから俺に探してきてほしいということだった。見つけたらあるだけの呪文を一通り買ってきてくれと前金ももらってる。
 俺だってテルヴァンニの気鋭の魔術師、しかもミストレス・アルマの唯一の弟子とは言え、正直言って今の力じゃ上位のデイドラ相手に立ち回るなんてのは不可能に近い。だから俺は姿を消しつつ息を殺してドレモラの横を通り抜け、いきなり出てきたハンガーにきつい一撃を食らって伸びちまいそうなところを何とか堪えながら、祭壇の光り物を失敬してはサドリス・モラから南へと進んでいた。
 アズラ海岸のどこかなんて漠然としたヒントしかない状態じゃ、目星をつけた遺跡から遺跡へと移動するだけでも一苦労だ。せっかく遺跡に辿り着いてもいるのは変な信者だけなんてこともザラにあるが、それでも俺が頑なに魔術師を探し続けるのには確固たる理由があった。
 もちろん高位のウィザードの用をこなして一目置かれたいのは当然だ。そこから昇進なんて話が出れば願ったりだってのも間違いない。だが一つだけ挙げろと言われれば、ミストレス・アルマの気を惹きたいからの一点に尽きる。師匠は俺にこの仕事を任せる時にはっきりこう言った──〝この術は本当に格好いいんですよ〟、と。
 バルモラの酒場にカイウスのおっさんを探しにきたブレトン女を見た瞬間、俺は魂を持っていかれたと言われても疑わないほどの激しい恋に落ちた。そしてあれが誰なのかをおっさんにしつこく尋ねてはのらりくらりとかわされている間に、その女は俺の家の扉を叩いて未来の代理人を迎えに来た。その日から俺はミストレス・アルマの目に少しでもよく映るための努力を欠かしたことはない。
 そして──。

「おい……あんた! そこのあんただよ! 赤いローブの!」

 モラグ・マールの東、オディルニランの南西のデイドラ遺跡で、俺はついに風変わりなローブを着たダンマーの魔術師を見つけた。

「やっと見つけたぜ。あんただろ? 変わった魔術書の商人ってのは」
「いきなり何かと思えば客か。お前の望みが他所ではお目にかかれない召喚術だと言うなら確かにここにある」

 そう答えた相手が宙に手をかざすと、瞬く間に何本もの召喚矢が現れる。剣や斧、盾に槍。まるで生きてるかのように勝手に動くそれらに俺も思わず目を見開く。こいつは、確かに師匠好みだ。

「よし、その呪文書全部くれ」

 目当ての本を手に入れると、できるだけ急いでテル・ウヴィリスへと向かう。意気揚々と塔の上まで翔び上がり、アークマジスターの部屋の前で名乗りを上げると、すぐ返ってくる入室許可に俺の心ももちろん踊った。

「お帰りなさい、エディ君。無事に戻って来てくれて何よりです。魔術書は手に入りましたか?」
「俺を誰だと思ってんだ? 他でもないあんたの弟子だぞ、当たり前だろ」

 俺が召喚術の本を次から次へと広い机の上に並べると、ミストレス・アルマはぱっとその顔を輝かせて嬉しそうに俺を見上げる。

「ありがとうございます! もちろんエディ君なら問題ないと思っていましたが、あちこち周るのは大変だったでしょう」
「まあな──いや、それほどでもねえよ」
「よくがんばりましたね。お疲れさまでした」
「……っ!」

 ニヤつかないと決めてたってのに、こんな顔されりゃどうにも口元が緩みそうになる。今の地位で満足なんてするもんかと思っていながら、このままずっと弟子でいるってのも悪くないなんて考えちまう。

「そうですね、ではお礼に……」
「ミストレス?」
「エディ君にはこれを。他の武器より威力は弱いかもしれませんが、とてもお洒落なんです。あなたならきっと上手く使いこなせるはずですよ」

 ミストレス・アルマはそう言いながら一冊の魔術書──召喚ダガーの書を俺に手渡す。一番単純だが使い勝手がいい、何せ召喚できる武器はそこらで売ってる鈍よりよっぽど斬れるからだ。こいつを五つか六つ俺自身の周りにでも浮かせておけば、どんな猪突猛進のノルドだって迂闊には近づいてこれやしない。

「へへ……あんたにそう言われちゃ死に物狂いでマスターするしかねえな。見てろよ、じきにレッドガードの曲芸師より上手く使いこなしてみせるぜ」
「はい、楽しみにしています」

 師匠を振り向かせるのが早いか、俺が術を使いこなせるようになるのが早いか。サドリス・モラに戻る道すがら、俺はようやく口角を上げて考える。自分が取った弟子が単なる優秀な魔術師なだけじゃなく稀代のいい男でもあると、ミストレス・アルマに思い知ってもらうためにもさっそく今日から訓練開始だ。

カテゴリー: Novel, TES3 タグ: TES Short Stories 3

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